お侍様 小劇場 extra

     お散歩、仔猫 〜寵猫抄より
 


     
おまけ


 「おや、勘兵衛様。感にいったお顔をなさって、いかがしましたか?」
 「いやなに。
  隣町で通り魔騒ぎがあったらしいが、その犯人が昨夜自首して来たのだと。」

 広げた新聞の活字にあまりに近しい地名があったので驚いたと。近くても遠い話題へ、正しく他人事というお顔をする家人らのすぐ足元では。小さな肢体のあちこちを、それでも精一杯に うう〜んと伸ばしの、愛らしいお口をかぱりと開いての欠伸を零しの。綿毛頭のおチビさん、起っきしたのと もしょもしょしておいで。

 「……あれ? 久蔵、その上着はどうしたんだい?」
 「にあ?」

 よくよく見ないと気づけなかったのが不思議なくらいの、昨日との大きな相違。ボタンのないボレロのような、短い丈の真っ赤な上着をまとってた彼であり。

 「…これもまた、冬毛装備の一種でしょうかねぇ。」
 「そうかも知れぬ。」

 これからひとしきりは寒さも増すからの。そんな言いようをする勘兵衛へ、それより寝床が寒かったから、それでと現れたものなのかも知れませんねと。こちらは相変わらずに、心配性なことを思い立ったらしい七郎次。小さな家人の間近へ腰を下ろすと、ひょいと抱き上げてのその身を抱きしめ、

 「久蔵? 寒いようなら、今晩からは私と寝ようか?」
 「にゃん?」

 こんな幼い子供が、寒いのこらえていたなんてと。真剣本気で案じているらしい七郎次の言いようへ、

 「いやいや、それより湯たんぽを作ってやってはどうだろうか。」

 小さな坊やの綿毛を撫で撫で、勘兵衛がそんな提案を持ち出して。何ですよ、薮から棒に。何が薮から棒だ、ウチにだって湯たんぽの1つや2つはあるだろう。そもそもこんな小さい子供を一人寝させるのが早すぎるんです。儂は産着を着ていた頃合いから、既に一人寝しておったが。それは1つ寝具を一人で使ってたって意味でしょう? お母様がちゃんとついてらしたのでしょうに、そんな勝手なお言いようで言いくるめられたりはしませんよ。

 「うにゃん?」

 もしかして、昨夜何かあったのか。それとも、これからの“夜”をややこしい段取りにされては面倒というのがありありしていた勘兵衛の言いようへ、ついついカチンと来た七郎次だったのか。何だか妙な雲行きになった頭上の二人を見上げてのそれから、朝食の支度にとキッチンへ去ってった七郎次の、やたらお元気で威勢のいいスリッパの音を立ててくのを見送った久蔵としては…、






 《 うんとね、元気なかったしゅまだにね、よしよししてあげたの。》
 《 それはまた……。》

 事情も判らぬ小さな幼児に、そんな格好で励まされちゃあ、ますますのこと落ち込んだんじゃあなかろうかと。遠出のお散歩、隣町からのしてきたという、真っ黒なお兄さん猫が微妙に同情混じりの声を出す。陽あたりのいい塀の上、伏せてた肢体へ寄り添って、自分の飼い主の作家先生のお話、そりゃあ楽しそうに持ち出すにゃんこ。通りすがりの人には綺麗な大人猫へ小さな仔猫がじゃれてるように見え、そして家人の二人には…辛抱強い黒猫さんがぎゅうぎゅうとくっつく幼子相手に、ずんとこらえてお付き合いをして下さってるように見える不思議。そんな光景を内と外とに見せ分けて、春も間近いいいお日和の中、いつしかうたた寝始める二人だったりするようです。







  〜Fine〜 09.01.31.〜02.07.


  *兵庫さんと雪乃さん、登場の巻でした。
   苦労性のヒョゴさんは相変わらずで書きやすかったのですけれど、
   雪乃さんは果たして何をどこまで気づいているやら。
   一番謎なのはあのお人なのかも知れません。

  *そして…何だかお軽くないか、こっちの勘兵衛様。
(う〜ん)
   向こうの皆様が色々とややこしいもの負っておいでなだけかしら。
   何てかこう、こんなライトでもいいのかなぁと、
   書き手が案じるくらいに不安な壮年だったり致します。
   とりあえず、仔猫に妙なこと吹き込むのは辞めたげて下さい。
   (いや、勝手に覚えてるだけなんだろうけれど。)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv **

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